茅葺屋根の維持管理

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秩父地域は、昔は、茅葺屋根がたくさんあり、私が住んでいるエリアでも茅葺屋根の家がたくさんありました。しかし、近年では、職人さんの減少と維持管理が難しくなり、茅葺屋根を壊して、瓦屋根にする家が多くなり、今では、茅葺屋根の家は、ほとんど見かけなくなってきました。皆さんも秩父にいらして、茅葺屋根の家の姿を見かけるようなことは、めったにないと思います。

秩父地域は、昔は農家が多かったので、茅葺屋根の材料は、小麦を使っておりました。この小麦を葺くことができる職人さんのことを、「藁葺き職人」と呼んでおり、現在では、この職人さんは一人もいない状態になっております。すぎの子の屋根の材料も小麦で葺かれており、秩父で最後の藁葺き職人とされていた、加藤さんがよくきて屋根の補修工事をやってくれておりました。

加藤さんの作業のちょっとした手伝いを私がやっていたのですが、加藤さんも高齢になってきたので、作業をしている姿を見て、「大丈夫ですか?」とか時々、声をかけて心配しておりました。

ある日、お茶を飲んでいる時に加藤さんに聞いてみました。

「加藤さん、加藤さんが職人をやめたら誰かいるの?」

すると、加藤さんは、

「俺がやめたら誰もいないよ。この屋根は小麦で葺いているんで、すごく難しい技術になるんだ。だから、全国で探してもいないと思う」

私は、その日から、加藤さんに頼んで、「俺に教えてくれないかな?」って言ったら、加藤さんは、

「無理だよ。ちょっとやそっとじゃ、これは覚えられなし、無理だと思うよ」

と言われました。私は、その日から、加藤さんの作業をしている姿を写真に撮ったり、何をしていたかとかを細かく日記に書き始めました。

 

普通、職人が一人前になるのに、毎日、仕事をしながらいろいろなことを覚えてき、やっと仕事を任せられるようになるのが十年くらいなんです。私もいろいろと加藤さんの仕事を手伝いながら覚えようとしたのですが、もう、覚えようとする茅葺屋根の家もないので、この今ある、家だけで覚えることを決意しました。しかし、10年かかる技術をどうやったらマスターできるのかと、いろいろ考えた結果、あることに気がつきました。

それは、加藤さんと一緒に、すぎの子の屋根の下地つくりから始め、小麦を葺く工程を一緒に見て覚え、その細かい作業を記録して残し、作業が終わったら、毎日、作業をしていた記録を見てイメージトレーニングしておりました。これを5年かけて続けていると屋根の下地から小麦を葺く工程までが、いっきに頭の中に入ってきて、技術が徐々に身についてきました。

この小麦を葺く作業が難しいのは、小麦の長さは60cm~70cmくらいになっており、短いんです。それを1束作る工程を4工程で葺き、一つの茅の束を作っていきます。下地は真竹になっているので、不規則な場所に不規則なものを長年の感覚だけで並べていく。小麦を一回にもつ間隔は、35~40cmくらいで、1本1本空気が入っているかのように綺麗に並べなおして持ってから葺きます。小麦を持つ感覚は、空き地に下地を作って、実際に何度も何度も葺いてみて、なっとくがいくまで並べるのを繰り返しました。

 

縄の締め方も数通りあり、とても覚えられないので、動画撮影し、それをパソコンにダウンロードしてスロー再生して覚えました。今では、足場作り・下地作り・屋根の葺き方のすべてを覚え、なんとか茅葺屋根の家の維持管理ができるようになりました。独学で始めたので、10年くらいはかかりましたが、これで何とか、私が生きている限りは、この家を守っていけそうです。

以下に茅葺屋根の作業風景を入れておきますので参考にしてください。

 

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屋根の端の部分は、こうやって4つの小麦の束を作り、縄で連鎖していきます。雨が流れることも考えながら綺麗に作っていきます。この部分は、定規の役割になっているので、これができないと、平らな部分も小麦を並べていくともできないほど重要な部分になっております。ここは、かなり作るのが難しく苦労したのを覚えております。

 

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小麦を並べるときは、こうやって1本1本空気が入っているかのように、綺麗に並べなおしてから、屋根になる部分に綺麗に並べていきます。手に持った時の小麦の幅は、だいたい35~40cmくらいです。あとは、屋根に置いてみてから、手のひらで押してみて厚みを確認し、足りないようだったら、そこへ小麦を足してあげます。この「手のひらで押してみて確認する」は、何回もやらないと習得ができないものになります。

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小麦を綺麗に並べたら、木のコテを使って叩いていきます。屋根の角度は、だいたい45度になっているので、角度に合わせて叩いていきます。このコテは、売ってはいないので自分で作成しました。職人さんが使っていたコテをみて、こんな感じかなって思って作りました。杉の木が一番、小麦に馴染みやすいので、材料は杉の木になっています。形は、屋根を打ちやすい形になっているので、多くの人は見たことがないと思います。

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足場の丸太をつるす縄を出しているところです。下地の竹は、30cmくらいの感覚で並べてあるので、6本おきの感覚で縄を出し、それに丸太を結び付け固定します。

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小麦を上まで並べたら、特殊なハサミでカットていきます。このハサミは、ブーメランのように反っていますので、テコの原理を利用し、下から上へ、下から上へとカットしていきます。このハサミを作る職人さんもいなくなるみたいなので、4つほど購入し持っております。

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特殊なハサミを使って綺麗にカットしていったら、後は、竹ぼうきを使って、小麦の破片を掃除していきます。下までカットしていったら完成になります。

覚えるときは、とても苦労しましたが、今では、自分で好きな時に屋根を葺けるので楽しみながら作業をしております。